東京高等裁判所 昭和49年(う)2342号 判決
被告人 古川五三雄
〔抄 録〕
原判決の挙示する各証拠を総合すれば、報酬を得る目的及び業としてなした点をも含め、原判示のとおりの被告人の弁護士法違反の事実を十分に認めることができる。即ち、被告人は弁護士の資格を有しないものであり、法定の除外事由がないにもかかわらず、それぞれ交通事故に関し、原判示(一)ないし(九)のとおり、各関係者から依頼を受けて、交通事故に基づく損害賠償額について、各関係当事者との間に交渉を行なって、示談をとりまとめたり、原判示(一〇)のとおり健康保険組合と交渉して、被害者の健康保険による給付継続をとりまとめたりし、いずれも自動車損害賠償責任保険金につき、それぞれ被害者からの支払請求手続を代行したりして、その報酬として、現金合計一八三万円及び普通貨物自動車一台(時価二五万円相当)を受領したものであって、これらの経緯に鑑みれば、被告人の右行為は、原判示のとおり弁護士でない同人が報酬を得る目的をもって法律事務を取扱うことを業とした場合に該当することは明白である。所論は、被告人には報酬を得る目的がなかった旨強調するが、しかし所論の被告人が原判示各交通事故に関しそれぞれ依頼を受けるに至った経緯の点について、記録を検討しても、これをもって報酬を得る目的がなかったとは到底解することはできないし、また記録を調査してみるに、被告人は依頼を受けた事件解決後は特に請求を受けなくても、謝礼を出すのが普通であることを十分知っており、かつ自発的に謝礼が提供されることを当てにしていたこと、のみならず原判示第四の場合には、被告人は示談が成立した際に、普通は示談金の一割の謝礼だが、本件は複雑だからと言って、二割の謝礼を請求して五万円を受領し、原判示第一〇の場合は、一五〇万円という多額の金員を受領しており、結局原判示のように一〇回にわたり報酬を受け取っていることに徴し、所論のとおり被告人が謝礼を請求しなかった点があるとしても、これをもって報酬を得る目的があったと解するのに妨げとなるものではないし、更に報酬を得る目的があるとするためには、依頼者の謝礼が弁護士会所定の弁護士の報酬に近い額のものでなければならないといういわれはない。また弁護士法七二条本文にいう業とするとは、同条所定の行為を反覆継続の意思をもってなすことをいうものと解せられるところ、被告人は前記のように繰り返し前後一〇回にわたる行為に出でたものであるから、原判示のように被告人は法律事務を取扱うことを業としたものと認定するのが相当であり、被告人が古物商を本業とするものであることなどの所論指摘の点を検討しても、右認定を動かすことはできない。その他所論に徴し、記録全部を検討し、かつ当審における事実取調の結果を勘案しても、原判決には所論の点につき事実誤認のあることを見出すことはできない。論旨は理由がない。
(矢崎 大沢 本郷)